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氷河鼠の毛皮ファンタジーSF小説

~氷河鼠の毛皮~

 

十二月二十六日にベーリングに行くために列車に乗ることになった。しかし、あたりは猛吹雪、この世ならざるような景色であった。列車の中には十五人ほどの人がおり、多くが防寒のためか毛皮を着こんでいた。中でも特に厚く着込んでいる紳士が話し出した、「わしの防寒の設備は大丈夫だろうか。」「どれぐらいご支度なさられました?」「イートハブの冬の着物の上に、ラッコ、ビーバー、黒狐の外套なんかもある、それからなんと四百五十ぴき分の氷河鼠を使った毛皮もあるのさ。」彼が自慢げにそういった途端、電車は激しく揺れ出し、吹雪の荒れ具合たるや、周りが見えないほどになった。そしてしばらくすると、見たこともない神殿のような場所に列車は止まった。「これはどういうことか!ここはどこだ!」先ほどの紳士は叫ぶ。列車から出てみると、二十人ほどの、すさまじい顔つきをした人、いや白熊の方が近いだろうか、に囲まれていた。彼らは鉄砲を突き出し、列車の人間を神殿へ連れて行かせた。神殿からは、美しく輝く女性が出てきた、まるで神の様な女性である。彼女は言った、「あなた方は動物の命をもてあそび、必要もないことに使っており、助けて欲しいとの願いを受けました。今からあなた方を裁判に処し、罪が真実であるのならば、天罰を下します。」なんということであろうか。「しかし、我らは必要があって、動物の命を貰っている!この毛皮だって防寒のためにどうしても必要だったのだ!」ある紳士は言った。神は言った、「他に防寒の手段はなかったのですか?」「ないわけではない、しかしこの毛皮が一番暖かい。」「それは動物の命を使ってまでに欲しい暖かさなのでしょうか。」紳士は黙り込んだ。「命というものには、上も下もないのです、人間、動物、植物なんでも命の価値は等しい。それをあなた方は神にでもなったおつもりで、人間以外の命を軽んじているようですね。」「しかし、食べ物に関してどうすれば良いのか、他の生き物だって命を頂いて生きている!」「そうですね、それはまさしくそう。あなた方はよくおっしゃいますね、神に感謝して頂きます、と。しかし本当に感謝しているのでしょうか。」「している。」「本当にしていれば、命を頂くのは最小限にするのではないでしょうか、氷河鼠の毛皮の自慢などもしないでしょう。」紳士は顔をしかめた。「やはり、あなた方は自分ら人間が全てだと考え、他の命のもてあそんでいる、天罰をくだ…」そう言いかけた途端、やせ細った一人の紳士が必死に言った。「しかし我々にできることもあるのではないでしょうか。毛皮を使っていたことは大変申し訳なく思っております、しかし私らには知能がある、今までもてあそんできてしまった命を救うことだってできるはずです!」また、科学者と名乗る一人の紳士が言った、「そうですね、動物の命を頂かなくとも、私たちに栄養を提供できる手段は今後できていくかもしれない。また我々のせいで消えかけた動物の数も増やす技術もできるではないだろうか、いや作らなければならない。」厚着の紳士が跪くように言った、「我々はその技術を命がけで作り出し、今までもてあそんだ命の償いをします、ここに誓って。」神は言った。「分かりました、ならば天罰は下しません。あなた達が、他の命の重さに気付いたのなら未来は明るいのかもしれませんね。」その直後、辺りは光に包まれ、元の列車の中に戻った。「あれはなんだったのであろうか、しかし、本当に我々は思い違いをしていたようだ、命を救わねば。」やせ細った紳士が言った。彼らは無事ベーリングに着いた。早速約束を果たすべく、科学研究所に赴いた。紳士らは自身の思いを必死に述べ、我々以外の命も救わなければいけないと言った。しかし研究所の職員は怪訝そうな表情で、「そんなことにお金を使って何になるのだ、動物を狩った方よっぽど楽ではないか。」そう言った。紳士らは他にも技術を実現してくれそうな場所に何度も、100か所以上赴いたが誰も彼らの思いを聞き入れるものはいなかった。彼らは一生をかけて懇願と自分たちによる発明を行った。しかし、協力も無かったせいか命を救う技術は実現されることはなかった。「やはり人間はこうなのであろうか…。」諦めたように科学者の紳士が言った。そして、彼を含めた列車の他の紳士の寿命は尽きてしまった。そしてきたる、30XX年、人間の科学力は飛躍的に進歩し、生態系を完全に私利的に操れるようになった。しかしそのことにより、人間の思わぬ方向に生態系は崩れ、食料の確保は増え続ける人口に対して困難な状況となった。それにより、各地で戦争が勃発し、食べ物を巡って命を奪い合った。かくして、神が天罰など下すまでもなく、人間ははかなく、いや必然であろうか、消え去ったのであった。